【労災】休業補償等給付の受給期間中に年次有給休暇は取得できる?
人事労務関係の実務において、よくご相談を頂く内容をQ&A形式でご紹介をしています。
Question
相談内容
- 労災の休業補償等給付を受給している療養期間に、年次有給休暇の取得請求があった場合、会社はそれを認めなければならないでしょうか?
- 受給期間中の年次有給休暇取得が可能な場合、労災の休業補償等給付はどうなりますか?重ねて受給可能ですか?
Answer
回答
- 労災の休業補償等給付を受給している療養期間であっても、年次有給休暇は取得可能です。労働者から取得請求があれば、取得を認めなければなりません。
- 当該年次有給休暇取得日については、賃金が支払われていることになるので、重ねて休業補償等給付は支給されません。
労働者が、「年次有給休暇取得時の賃金」と「休業補償等給付の受給額」を比べて高い方を選ぶ、なんて話も聞くね。
詳細のご案内
そもそも休業(補償)等給付とは
労働者が業務上又は通勤による怪我や病気によって休業したときに、労災保険から支給される所得補償給付です。
以下の要件を満たす場合に、待期期間を経て、休業4日目から、休業(補償)等給付と休業特別支給金が支給されます。
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため労働することができない
- 賃金を受けていない
待期期間とは
『待期期間』とは、休業初日から3日目までを指し、本当に給付が必要な程度の休業か確認をする為に設けられた期間です。
業務災害の場合、待期期間中、事業主が労働基準法に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%の支払)を行う必要があります。
ちなみに、通勤災害又は複数業務要因災害の場合には、休業補償の義務はありません。(事業主の補償責任についての法令上の規定はありません。)
給付額の算出方法
給付額は、次の計算により算出されます。
ちなみに『給付基礎日額』とは、労働基準法の平均賃金を原則としており、特に休業(補償)等給付の額の算出に使用する『休業給付基礎日額』においては、以下の事項を考慮して算出されます。
- 最低保証額 → 補償の実効性確保のため、給付が低くなりすぎないよう調整します。毎年8月に改定される「自動変更対象額」を最低保障としています。
- スライド制 → 物価高騰等に伴う賃金水準の変動に相応しい給付にするため調整します。四半期(1月〜3月、4月〜6月、7月〜9月、10月〜12月)ごとの平均給与額が、算定事由発生日の属する四半期の平均給与額の100分の110を超え、又は100分の90を下回る場合に適用します。
- 年齢階層別の最低・最高限度額 → 賃金水準はまだまだ年功序列的な性質が強いため、年齢相応の保障を実現するため調整します。給付が長期に渡る場合(療養開始後1年6か月を経過した日以後の場合)に適用します。
年次有給休暇のおさらい
そもそも年次有給休暇は、会社が定めた所定休日のほかに毎年一定日数の休暇を与えることで、労働者の心身のリフレッシュを図り、またバリバリ働いてもらう為の制度であるといえます。
なお、年次有給休暇は、労働義務のある日に取得することができ、それにより当該日の労働義務を免除することができます。療養期間について、会社が休職発令をしている場合には、休職期間は既に労働義務が免除された日となるため、重ねて年次有給休暇を取得することはできません。
所定休日(もともと休日である日)に年次有給休暇が取得できないのと同じイメージだね!
付与日数、制度概要、その他年次有給休暇に関する各種相談については、以下の記事等で説明していますので、ご確認ください。
年次有給休暇の自由利用
以下の通達により、年次有給休暇の利用目的については、労働者の自由とされています。
また、病気欠勤に充用することも当然に認められます。
(年次有給休暇)の解釈と運用(昭和48年3月6日、基発110)(抜粋)
昭和48年3月2日、労働基準法第39条の解釈について最高裁第二小法廷判決がなされたので、今後における同条の解釈運用は左記によって行なうので、遺憾のないようにされたい。
(一)年次有給休暇の権利は、法定要件を充たした場合法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまってはじめて生ずるものではない。同条第4項の「請求」とは休暇の時季を指定するという趣旨であって、労働者が時季の指定をしたときは、客観的に同項ただし書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、その指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。このように解するならば、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」というような観念を容れる余地はない。
(二)年次有給休暇を労働者がどのように利用するかは労働者の自由である。しかし、労働者がその所属の事業場においてその業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇を提出して職場を放棄する場合は、年次有給休暇に名をかりた同盟罷業にほかならないから、それは年次有給休暇権の行使ではない。
ただ、このようにいえるのは、当該労働者の所属する事業場で休暇闘争が行なわれた場合のことであって、他の事業場における争議行為に休暇をとって参加するような場合は、それを年次有給休暇の行使でないとはいえない。
(労働基準法第39条関係)(昭和24年12月28日、基発1456)(抜粋)
(問)
長期休業中の労働者の年次有給休暇の行使に関し、左記〈編注:下記〉のとおり取扱ってよいか。
(一)負傷又は疾病等により長期療養中の者が休業期間中年次有給休暇を請求したときは、年次有給休暇を労働者が病気欠勤等に充用することが許されることから、このような労働者に対して請求があれば年次有給休暇を与えなくてはならないと解する。
(二)休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務が免除されることとなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年次有給休暇請求権の行使ができないと解する。
(答)
(一)、(二)とも貴見のとおり。
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まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は、労災保険給付と年次有給休暇の関係について、実務においてちょこっと疑問に思う部分の説明をさせていただきました。
特に、「年次有給休暇の自由利用」が求められますので、病気や怪我の療養のために年次有給休暇を使用しても、何ら問題がない訳です。
ただし、休職発令等により既に労働義務を免除している場合でなければ、業務災害の療養期間中に年次有給休暇を取得するか、それとも労災保険からの休業補償等給付を受けるかの判断は、労働者の自由です。(会社が年次有給休暇取得を強制することはできないので、注意が必要です。)
実務担当者が制度をしっかりと理解した上で、対象労働者に対し丁寧な説明ができるといいですね!