年次有給休暇の出勤率8割以上ってどういうこと?『出勤率』と『全労働日』の考え方とは?
人事労務関係の実務において、よくご相談を頂く内容をQ&A形式でご紹介をしています。
Question
相談内容
- 育児休業をしている社員について、長く休んでいるんだし、育児休業中や復帰後は出勤率8割未満として年次有給休暇は付与しないという扱いでいいよね?
- 従業員が病気により会社を休んでいましたが、年次有給休暇の出勤率の算定をするにあたって、その休んでいた期間はどのように考えたらよいのでしょうか?
- 年次有給休暇の出勤率8割の考え方って?
- 正社員と比べて8割以上出勤していなきゃいけないの?
- 「出勤みなし」とか「全労働日に含めない」ってどういうこと?
Answer
回答
- 労働基準法により「出勤率8割以上で年次有給休暇付与」という要件が定められています。この「出勤率」は「出勤日÷全労働日」で計算を行います。(本来働くべき日のうち、実際どれだけ働いたか)
- 実際に出勤率計算を行うにあたっては、休暇・休業について『出勤みなし』『全労働日に含まない』『欠勤扱い』などの取り扱いに注意が必要です。
- 詳しくは後述しますが「育児休業をした日」は「出勤みなし(出勤した日としてカウントして出勤率算定)」を行います。育児休業中や復帰後であっても、通常出勤していたとみなして、年次有給休暇を付与しなければなりません。
出勤率の計算は、労働者の年次有給休暇付与の有無に関ってくる重要な事項です!しっかりと考え方を理解しよう!
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出勤率8割以上とは
以下の通り、労働基準法により原則的な付与日数や出勤率要件が定められています。
① 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
② 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。
六箇月経過日から起算した継続勤務年数 | 労働日 |
一年 | 一労働日 |
二年 | 二労働日 |
三年 | 四労働日 |
四年 | 六労働日 |
五年 | 八労働日 |
六年以上 | 十労働日 |
法律の条文そのままだとなかなか理解し辛いですよね…
簡単な表にまとめると、具体的な付与日数は以下のように定められています。
勤続期間 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
そして、上記の年次有給休暇が付与されるためには、付与日の直前の1年間(初回は6か月間)において「全労働日の8割以上出勤していること(出勤率8割以上であること)」が要件となっています。
逆に、「直前1年間の出勤率が8割未満」の場合には、その年の年次有給休暇は付与する必要がありません。
全労働日と出勤率の考え方
出勤率=出勤日÷全労働日
上記より、基本は「本来働くべき日のうち、実際に労働した日数」を出勤率として考えます。
ただし、育児休業をした日等「法律に基づく休業制度を取得したことにより、出勤率が下がって年次有給休暇が付与されない」という事態が発生しないように留意する必要があります。そこで、詳しくは後述しますが、『出勤みなし』『全労働日に含まない』という取り扱いがあります。
そのため、出勤率の計算方法は、
『出勤率=出勤日(出勤みなしをする日を含む)÷全労働日(全労働日に含まない日を除く)』
と考えることができます。
『出勤みなし』とは
⑩ 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。
(昭和22年9月13日 発基17号)(平成6年3月31日 基発181号)
年次有給休暇としての休業日数は本条第1項及び第2項の規定の適用については出勤したものとして取扱うこと。
上記の通り、労働基準法及び通達により、『出勤みなし』をしなければならない休業等が定められています。出勤みなしをしなければならない日をまとめると、以下の通りです。
(1) 業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
(2) 労働基準法に基づき産前産後休業をした日
(3) 育児・介護休業法に基づき育児休業(出生時育児休業含む)または介護休業をした日
(4) 年次有給休暇を取得した日
そのほか「遅刻・早退等があっても一部でも勤務した日」とか「1時間しかシフトに入っていない日」も出勤日として1日カウントになるよ!
『全労働日に含まない日』とは
(昭和33年2月13日 基発90号)(昭和63年3月14日 基発150号)
<出勤率の基礎となる全労働日>
年次有給休暇の請求権の発生について、法第39条が全労働日の8割出勤を条件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する立法趣旨であることから、全労働日の取扱いについては、次のとおりとする。
1 年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る。
したがって、所定の休日に労働させた場合には、その日は、全労働日に含まれないものである。
2 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、3に該当する場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとする。
例えば、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられる。
3 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日であっても、次に掲げる日のように、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは、全労働日に含まれないものとする。
(一) 不可抗力による休業日
(二) 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
(三) 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
上記の通達により、出勤率要件の趣旨や全労働日考え方が示されています。全労働日に含まれない日をまとめると、以下の通りです。
(1) 就業規則等で定める所定休日に労働させた日
(2) 不可抗力による休業日
(3)使用者の責に帰すべき事由による休業日
(4)正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くされなかった日
『出勤みなし』『全労働日に含まない』『欠勤と同様の扱い』を選択する場合
私傷病等による欠勤の場合、通常「全労働日(分母)に含んで、出勤日(分子)には含まない」というカウントをすることにより、出勤率が下がります。
(1) 私傷病等により欠勤した日
じゃあ、ここまでに出てこなかった慶弔休暇、私傷病休職、子の看護休暇・介護休暇などの休暇制度などの取り扱いはどうなるのかな?
労働基準法その他の法律に定めのある休暇制度で比較的短期間のもの(生理休暇、子の看護休暇・介護休暇など)や、就業規則により会社が認めている休暇制度(特別休暇、慶弔休暇、休職など)については、法律や通達で示されていない以上、会社で取り扱い方法を選択・決定することができます。
そのため『欠勤と同様の扱い』をすることも可能です。例えば、子の看護休暇を1日取得したとすると、全労働日(分母)には1日が含まれ、出勤日(分子)からは1日が除外されることになりますので、出勤率が下がります。
ただ、法律や就業規則の定めに基づき労働者が当然に取得できる権利がある制度なのに、欠勤と同じように出勤率が下がってしまうのは、あまり望ましいとは言えません。
そこで当ブログでは、『全労働日に含まない日』として取り扱うことで、出勤率の算定から除外する方法をおすすめします!
「法律や就業規則に基づく休暇制度」→「労働義務が免除された日」→「働くべき日ではない」→「全労働日に含まない」という考え方です!
(1) 生理休暇を取得した日
(2)母性健康管理のための休暇等の期間
(3) 子の看護休暇・介護休暇を取得した日
(4) 公民権行使(裁判員制度等)を取得した日
(5)会社が就業規則で定める特別休暇や慶弔休暇等(法定以外のもの)を取得した日
(6) 休職期間
「急に精神疾患による長期休職者が出て、出勤率の算定どうしよう…」など、その時になって困らないよう、出勤率算定の取り扱いについては、予め就業規則にきちんと明記(出勤みなしをする日、全労働日に含まない日、欠勤と同様に扱う日をそれぞれ列挙)しておくことが望ましいでしょう。
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引用元:資格の大原HP
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