退職時のまとまった年次有給休暇は拒否できる?業務引継ぎしない退職希望者に対して懲戒や退職金不支給処分はできる?
人事労務関係の実務において、よくご相談を頂く内容をQ&A形式でご紹介をしています。
Question
相談内容
- 退職する従業員から、退職日の2週間前に、急に「明日から年次有給休暇の残日数を全て使って、そのまま辞めます」と請求された場合、拒否することはできますか?
- 退職時のまとまった年次有給休暇消化により、業務引継ぎを拒否する者や満足にできていない者に対して、懲戒や退職金不支給処分を行えますか?
Answer
回答
- 年次有給休暇の取得希望について、会社は拒否できません。また、退職日を超えて年次有給休暇を取得させることもできないので、時季変更も難しいでしょう。
- 本人との話し合いで、年次有給休暇の買い上げや退職日の後ろ倒しで対応することがよく見受けられます。
- 業務引き継ぎを拒否する者や引き継ぎ不十分な者について、懲戒処分の対象とすることは可能です。なお、退職金不支給の扱いについては十分に検討が必要です。
かなり労働者が有利な環境にある印象だね…
会社としては対応に困っちゃうなぁ…
詳細のご案内
退職時の年次有給休暇は拒否できる?
退職を予定していても、年次有給休暇の取得申出は拒否できません!
年次有給休暇は労働者本人が請求した時季に与えなければなりません。これに関して、詳しくは以下の記事をご覧ください。
上記の記事で案内しております「時季変更権(=会社が「別の日に取得してくれないか」と言う権利)」についても、退職予定日が決まってしまっていれば、それ以降の日付を指定することができません。
時季変更ができないということは、原則に戻って「労働者が請求する時季に与えなければならない」という考え方になります。
引き継ぎをしてから退職してほしい!どう対応する?
基本的な考え方は前述の通り、退職日まで期間的余裕がなく、業務引継ぎが充分に行われずに、事業に重大な支障を生じさせるものであったとしても、請求された時季に年次有給休暇を取得させなければなりません。
ただ「引き継ぎとか関係なく、会社が全て認めないとダメ!」では、厳しいですよね。
そこで、話し合い等により、労働者本人が納得する場合に限り、以下の対応を取る方法がよく見受けられます。
退職申出と年次有給休暇の取得申出を受けた後、基本的にはどちらの申出も認めていただきます。その上で、ご本人にきちんと以下の内容について説明をし、合意を得ることで、対応します。
6月末付退職希望であった場合で、業務引き継ぎに1か月程度かかるのであれば、「これから1か月間は〇〇さんへの業務引き継ぎのために勤務してほしいので、7月末退職に後ろ倒しにしてくれないか。当然働いた分の賃金支給や年次有給休暇の取得はしていただけます。」といったイメージです。
①同様、引き継ぎの必要性や期間の説明を行い、労働者本人の合意を得た上で対応します。
転職先の入社日がもう決まっているなどの状況により、退職日後ろ倒しができないことも想定されます。
そういった状況のときに、①の例であれば、引き継ぎにかかる1か月間、年次有給休暇を取得せず実際に出勤してもらうことになるので、「1か月分の年次有給休暇相当分を買い上げる方法(賃金追加支給、臨時賞与、退職金上乗せ)」により交渉していくといったイメージです。
年次有給休暇の買い上げについては、以下の記事で詳しくご案内しています。
ちなみに、退職日を超えると年次有給休暇の残日数は当然に消滅となります。本人から年次有給休暇の請求がなく退職日を迎える場合には、あえて残日数分の買い上げ等をする必要はありません!
それでも業務引き継ぎが不十分な者に対し、何らかの処分をしたい!
上記対応が難しく引継ぎが充分でない場合、就業規則の規定に基づき、懲戒処分の対象とする事も考えられます。
懲戒処分を行う場合には、予め就業規則に「懲戒処分の種類」や「懲戒事由」を列挙・明記しておく必要があります。就業規則に規定された内容を根拠に処分が行えるということです。
つまり、「こういう問題行為をしたら、こういう処分をします」ということを書いておき、実際に問題行為があったときに「はい、就業規則のここに書いてある通り処分しますよ〜」というイメージです!
就業規則の必要性や記載事項については、以下の記事をご覧ください。
ただし、退職予定がある者に対し、わざわざ「解雇通知」をするのもおかしな話です。なお、引き継ぎ不十分者を解雇するとなると、その問題行為に対して処分が重たすぎると考えられますので、「解雇権濫用」に当たる(解雇無効となる)可能性が高いです。
また、軽微な処分として「譴責(けんせき)(=始末書を提出させて改善を促すもの)」がありますが、もう辞める人に反省文を書かせてもあまり意味がないように感じます。
では、どういった懲戒処分がいいのでしょうか。
減給処分は、よく「減給の制裁」と言われます。問題行為に対するペナルティとして、賃金の一部をカットするものです。際限なく減額することはできず、労働基準法により以下のように定められています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
例えば、「賃金月額30万円(平均賃金1万円)の労働者」について、引き継ぎ不十分という「違反行為1回」に対する「減給処分1回」の上限額は、「5千円」というイメージです。
あまり大きな減額はできないですね。
退職金の減額や不支給はできる?
「急に引き継ぎなく退職されて会社としてかなり迷惑しているのに、「減給処分」のちょこっとのペナルティだけでは怒りが収まらない」なんて経営者の言葉をよく耳にします。
そして、「そんな奴には退職金は払わない」なんて考える方もいらっしゃいます。
ただ、ちょっと待ってください。
問題行為が軽微な場合には、退職金不支給処分は一般的に困難とされています。
今回の「引き継ぎ不十分」は、過去に労働者本人が頑張って働いた「会社への貢献」や「実績」が全て消え去るほどに酷い行為でしょうか。
過去の功労に対してはきちんと評価をしていただき、それとは別に違反行為は違反行為として、それぞれ考えていただくことをお勧めします。
ちなみに、牽制目的で就業規則に退職金不支給処分の規定をする事は可能ですし、よく見受けられます!
その他の年次有給休暇に関する疑問を解決する!
年次有給休暇に関する実務相談のQ&Aをまとめました!
まだまだ疑問がある方は以下の記事の「年次有給休暇」をご覧ください!
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引用元:資格の大原HP
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