【ちょこっと情報】『リスキリング』への取り組み
2022年、岸田政権が「5年間で1兆円をリスキリング支援に投じる」と発表して以降、「リスキリング」という言葉をよく耳にするようになりました。
DX化や生成AI等の発展により仕事がなくなるのではないかという意見も散見される時代背景の中、社員のリスキリングにどう取り組むかが、企業における喫緊の課題となっています。
今回の記事では、人事労務の現場レベルから見るリスキリングへの取り組みについて、少しご紹介をさせていただきます。
リスキリングって具体的に何したらいいんだろうね〜
『リスキリング』とは
リスキリングの定義
「リスキリング」は、よく「学び直し」として知られますが、以下のリクルートワークス研究所(経済産業省HP掲載の資料)によると「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。特に昨今は「生成AIを活用した事業開拓やDX化に備えるべくデジタル時代に必要なスキルを身に付けさせること」として解釈されることが多いです。
なお、経済産業省による「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、リスキリングを、キャリアアップ目的の転職を行うための準備段階として位置付けているような印象を受けます。
ただし、企業がリスキリングを行うことの主目的は「将来の成長事業を担う人材を育成することによる企業成長」ということになると思います。リスキリングに取り組んだ結果、スキルを身につけた優秀な人材に転職されるのであれば、本末転倒でしょう。適正な評価基準をセットで検討していかなければいけません。
スキルアップとリスキリング
日本における「リスキリング」は、スキルアップと本来のリスキリング、さらにはリカレント教育(個人が自主的に学び直すことであり、長期にわたり就労と学習を交互に繰り返すもの)が混同されて普及しているとも言われます。いずれも企業成長には欠かせないものであり、企業の実情にあった「方法」「対象者の選定」「対象資格・スキルの選定」「評価基準の設定」を総合的に検討していくことになるでしょう。
人事労務関係における『リスキリング』の捉え方
人材確保の問題
前述の通り「転職の準備段階」としての捉え方がある一方、人事労務関係の現場レベルにおける喫緊の課題として、以下2つが挙げられます。
- 転職者の増加による「優秀な人材の流出」
- フリーランスを含む多様な働き方の普及による「人材採用の難化」
スキルを身に付けさせた結果転職されては、企業としてはデメリットばかりが大きくなってしまいます。「社員の成長」を「企業の成長」に還元させるためには、スキルを身に付けさせると同時に、適切な評価を行うこともリスキリングを行う上では重要になってきます。
高年齢労働者のモチベーションの問題
少し話が変わりますが、年功的賃金が主流となっている日本において、65歳までの雇用確保措置(又は70歳までの就業確保措置)による定年再雇用や役職定年制度に基づく労働条件変更(賃金減少や責任減少)から、高年齢労働者のモチベーション低下も懸念されています。
年更的賃金とは別の軸として、年齢や役職にかかわらず、資格取得による専門性や新たなスキルを取得する意欲等を評価する制度を構築することで、(リスキリングを通じて)高年齢労働者(役職定年者や定年再雇用者)のモチベーションを維持し、主戦力として職務に携わってもらうことにつながると考えられます。
そこで求められるのは、デジタル人材の育成に限らず、スキルアップを含む広い意味でのリスキリングであると考えます!
資格取得支援制度
資格取得支援制度とは
リスキリングといっても、現時点において具体的な成功事例がたくさんあるという訳ではありません。そのため、具体的に何をすべきか悩ましいところですが、一部の企業の前例をもとに見切り発車で実施してしまうことは望ましくありません。
そこで、具体的なリスキリング手法として考えやすいのは、「資格取得支援制度」が挙げられます。
主な取り組みは、次の通りです。
- 資格取得にかかる費用の全部又は一部の負担
- 資格取得に向けた社内研修を実施
- 資格取得後に報奨金(一時金)を支給
- 資格取得者に対して資格手当(毎月)を支給
資格取得支援制度導入のメリット
① 学習意欲の向上
短期的に見れば、「この資格を取得すれば、資格手当が〇〇円もらえる」ということで社員の学習意欲向上が見込まれます。
また、受験費用面で踏みとどまっていた意欲ある社員が、積極的に学習できるようになるかもしれません。
さらに、制度利用して学習している以上、中途半端な結果ではまずいという、学習に対する責任感が生まれます。
② 生産性向上・業績向上
長期的には、より多くの社員がスキルアップ・リスキリングし、業務効率や生産性の向上が見込まれ、結果として業績向上が期待されます。
③ 優秀な人材の流出防止
そして、社員一人ひとりのスキルアップを支援し、成果に対してきちんと評価をすることで、社員のエンゲージメントを高めることができます。
「学べば昇給・昇格する」という企業文化を作ることができれば、優秀な人材の流出防止に効果が期待できます。
④ 優秀な人材の採用
さらに、「人材育成に力を入れている」「社員の意欲を大切にしている」「キャリアアップが期待できる」という部分について、他社との優位性をアピールできれば、優秀な人材の採用・確保にもつながってくると考えます。
資格取得支援制度導入のデメリット
① 費用の発生
受験費用、教材費、試験日の賃金や交通費等、構築した支援制度に基づき企業負担部分についての費用が発生します。
なお、何度も受験に失敗するような社員の支援をするのは好ましくありません。社員ごとの制度利用回数に上限を設定しておく等の対応が望ましいでしょう。
制度を構築したときは、就業規則や賃金規程に明記することになると思います。就業規則等において、対象者や利用上限などを明確にしておきましょう!
② 学習時間の確保・取扱い
就業時間中に研修等の学習時間を設ける場合、学習時間自体を確保することが難しいことが想定されます。確保できたとしても、その間の労働力が減少します。
一方、就業時間外に行う場合、リスキリングに要した時間が労働時間か否か(賃金支払いが必要か否か)という問題が発生します。
③ 管理の手間
また、支援制度を活用して学習する社員の管理の手間が発生します。適正な評価を行うために、学習状況や資格取得状況の把握をする必要が生じます。
資格取得支援制度導入に向けて
「デジタル人材を育てることが自社の企業成長に必要不可欠なのか?」という検討をせずに、見切り発車でリスキリングの流行にのって制度を実施すると、「社員成長」が「企業成長」に繋がらず、時間と費用だけが費やされてしまうことが想定されます。
リスキリングの主目的である「企業成長」のために、デジタル人材に限らず、どういう人材に成長してほしいか、どういう人材を高く評価するか、どういうスキルを身に付けてほしいか、といった経営理念にも近い部分を改めて検討した上で、制度構築・運用をしていくべきでしょう。
特に、資格取得支援制度においては、前述のメリット・デメリットを考慮した上で、社員が積極的に学習したいと思える制度設計にしていくことが重要です。
リスキリングの普及により、企業が「これからも職業で価値創出し続ける社員」を育てていくために、企業として何が必要なのか、今一度考え直すきっかけになると思っています。
【補足】『高年齢者雇用安定法』の義務・努力義務
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)では、65歳までの雇用確保措置及び70歳までの就業機会確保措置が定められています。
60歳定年の65歳まで継続雇用とする企業が多く、その60歳定年時に役職を外したり、賃金減少を伴う労働条件変更をしたり、といった対応が見受けられます。
今まで責任のある仕事をしてきた、高い賃金をもらってきた、という方のモチベーション低下が懸念されています。
その他の社会保険労務士資格関連の記事
おすすめの勉強方法
社会保険労務士試験において、直接的に時事問題は出題されませんが、注目された法改正や制度、取り組みについては一般常識科目で出題される可能性があります。関連する統計などがあればそちらも確認しておきたいところです。
独学で法改正や実務上注目される論点について追い切るのはかなり大変です。少しお金をかけてでも、独学ではなく通信講座を使って、効率よく最短合格を目指すことが望ましいかもしれません。
当ブログでは、『資格合格パートナー スタディング社労士講座』をお勧めしています。
スタディングの講義は、紙のテキストや板書を用いず、スライドの図表が講義の説明に合わせて動くため、制度の仕組みや切り替わり等もビジュアル的に分かりやすく理解が進みます。
文章のみでは難解な法令の言い回しも、「豊富な図表を駆使したスライド」により、テレビの情報番組を見るように分かりやすく楽しく学習できます。
他の予備校の通信講座と比較しても圧倒的にコスパが良いのが特徴です!
まとめ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は「リスキリングへの取り組み」について、ご紹介をさせていただきました。
実務に携わる方の情報整理だけでなく、社労士試験合格を目指している方の後押しができればいいなと思います。