【ちょこっと情報】『フリーランス新法』について
令和5年5月に公布され、令和6年秋頃施行予定の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」いわゆる「フリーランス新法」についてご紹介します。
副業・兼業の普及や在宅勤務・テレワークの普及等の影響もあり、働き方の多様化が進んでいます。そこで『フリーランス』という働き方が社会に普及してきた一方で、フリーランスの方が取引先との関係で様々な問題やトラブルを経験していることが明らかになっています。そのような背景により「フリーランス新法」が公布されました。
副業兼業の普及で、フリーランスの働き方を選択する人も増えてきているよね!
フリーランス新法制定の背景・概要
法律の概要
フリーランス新法は、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、令和5年5月に公布され、令和6年秋頃の施行予定となります。(公布日より1年6か月を超えない日が施行期日とされているため。)
この法律の目的は、一人の個人として業務委託を受けるフリーランスを対象として、交渉力などに格差が生じることを踏まえて、以下2つの目的が挙げられます。
法制定の背景
令和2年に内閣官房が実施した調査では、「462万人」がフリーランスとして働いていると試算されました。さらに毎年増加傾向にあるとのことです。
また、令和3年に内閣官房が実施したフリーランス実態調査では、フリーランスのうち約4割の方が、以下のような取引上納得できない行為を受けた経験があるという実態が明らかになりました。
- 一方的に発注が取り消された
- 発注事業者からの報酬が支払期日までに支払われなかった
- 発注事業者からハラスメントを受けた
- 取引条件や業務内容が、書面やメールなどで十分に示されていない
フリーランスの相談窓口である「フリーランス・トラブル110番」には、発注事業者からのパワハラやセクハラに関する相談も寄せられています。「契約を継続してほしいなら◯◯をしろ〜」とか「無理な発注量や納期に対応しないとどうなるか分かってるんだろうな〜(ボキボキボキッ)」とかですね…
なお、労働契約(使用者対労働者(企業対個人))におけるハラスメント防止については、男女雇用機会均等法、育児介護休業法や労働施策総合推進法の普及等により、問題意識という意味での認識が変わってきている印象を受けます。しかし、業務委託契約におけるハラスメントについては、未だ認識が甘い(問題が表面化されにくい)のではないでしょうか。
このように、発注事業者である組織(企業)と受注者である個人(フリーランス)との契約では、組織の方が強い立場になりやすい傾向にあります。
従って、フリーランスについても、労働契約における労働者と類似した保護が必要であると考えられます。
組織対個人の構図で継続して契約される業務委託の場合には、実態として労働契約と同様に組織の立場が強くなりやすいので、取引の適正化に加えて、フリーランスに対しても労働者と類似の保護(就業環境の整備)をしていこう!ということだね!
適用対象者
前述した通り「組織対個人」の構図となる場合の個人(フリーランス)を保護する目的がありますので、従業員の有無により以下の通り定義されています。
フリーランスに業務委託をする事業者であって従業員を使用するもの
業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの
例えば、「企業と契約するフリーのカメラマン」は対象ですが、「消費者が七五三の写真撮影を直接依頼してくる場合」は個人対個人の構図になりますので対象外です。また、自分で撮影した写真をフリマアプリやインターネット販売等する場合は、単に業務委託ではないので対象外です。
フリーランス新法の内容
この法律に規定される義務項目は、大きく次の7項目となります。
①~③は独占禁止法や下請法に準じた規制です。
④~⑦は労働者と類似の保護を実現するために規定されていると考えられます。
以下、大まかな内容を押さえておきましょう。
義務項目の内容
① 書面等による取引条件の明示
「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」その他「公正取引委員会規則」で定めるその他の事項の明示を義務付けています。詳細は「公正取引委員会規則」の決定を待つことになります。
明示の方法は、「書面等」とされ、発注事業者とフリーランス双方の利便性向上の観点から以下のいずれかを発注事業者が選択できるようにしています。
- 取引条件を記載した書面を交付する方法
- 取引条件をメール等の電磁的方法により提供する方法
② 報酬支払期日の設定・期日内の支払
「成果物等を受領した日から起算して60日の期間内」の「できる限り短い期間」に報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければなりません。
定めがない場合には、60日経過日が支払期日とみなされます。
なお、発注事業者が、他の者から受託した業務委託をフリーランスに再委託する場合は、「他の者から発注事業者への報酬支払期日から起算して30日の期間内」とされます。
③ 禁止事項
独占禁止法及び下請法に準じて以下の行為が禁止事項として列挙されています。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更、やり直し
具体的なイメージは次の通りです。
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否することです。発注の取消し、納期の延期などで納品物を受け取らない場合も受領拒否に当たります。
フリーランスに責任がないのに、発注時に決定した報酬を発注後に減額することです。 協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、こうした減額行為が禁止されています。
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品することです。
発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬を不当に定めることです。通常支払われる対価とは、同種又は類似品等の市価です。
フリーランスに発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、発 注事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入、利用させることです。
発注事業者が自己のために、フリーランスに金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させることです。報酬の支払とは独立して行われる、協賛金などの要請が該当します。
フリーランスに責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、受領した 後にやり直しや追加作業を行わせる場合に、フリーランスが作業に当たって負担する費用を発注事業者が負担しないことです。
具体的事例は厚生労働省や内閣官房等から公表されている「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(概要版)」の5〜11ページにも記載されています。以下ご確認ください。
④ 募集情報の的確表示
発注事業者とフリーランスの取引条件のミスマッチやトラブル防止の観点から、広告等によりフリーランス募集に関する情報提供をするときは、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
ただし、当事者の合意に基づき、広告等に掲載した募集情報から、実際に契約する際の取引条件を変更する場合は違反とはなりません。
⑤ 育児介護等と業務の両立に対する配慮
発注事業者は、フリーランスが育児や介護等と両立して業務が行えるよう、その申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
特に、一定期間継続して委託されるフリーランスについて、一方的な契約解除とはせず、以下のような育児や介護等に配慮した対応が想定されます。
- フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする
- 育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする
この「一定期間」とは、「政令で定める期間以上の期間行う業務委託」と規定されますが、未だ政令は発出されていませんので、正式決定を待つことになります。
⑥ ハラスメント対策に係る体制整備
発注事業者は、フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないこととされます。
発注事業者が講じるハラスメント対策のための措置の内容は、労働者のハラスメント対策と同様に、以下のような内容が想定されています。
ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員等に対してその方針を周知・啓発します。
例:就業規則への規定、社内ポスターの掲載、ハラスメント研修の実施
ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備します。
例:相談窓口の設置、相談担当者の決定・周知、外部機関への委託、就業規則の懲戒事由等への規定
ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応をします。
例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置、プライバシー保護
⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示
発注事業者は、継続的業務委託を中途解除する場合は、原則として中途解除日の30日前までに、フリーランスに対し予告しなければなりません。
契約の中途解除や不更新をフリーランスに予め知らせ、フリーランスが次の取引に円滑に移行できるようにすることを目的とした規定です。(労働者の解雇予告に相当する規定でしょう。)
例外として、天災等で業務委託の実施が困難になった場合や、フリーランスの責めに帰すべき事 由がある場合には、予告不要で即時解除可能と想定されています。
パンフレット・Q&Aのご紹介
この記事で紹介しきれていない詳細については、厚生労働省HPにて公表されている「フリーランスの取引に関する新しい法律ができました」をご覧ください。
また、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律Q&A」について、以下よりご確認いただけます。
その他の社会保険労務士資格関連の記事
おすすめの勉強方法
フリーランス実態調査については、一般常識科目対策として傾向は一度目を通しておくことをお勧めします。
社会保険労務士試験において、直接的に時事問題は出題されませんが、注目された法改正や制度、取り組みについては一般常識科目で出題される可能性があります。関連する統計などがあればそちらも確認しておきたいところです。
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まとめ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、令和6年秋頃施行予定の「フリーランス新法」について、ご紹介をさせていただきました。
実務に携わる方の情報整理だけでなく、社労士試験合格を目指している方の後押し(実務イメージ)ができればいいなと思います。