月60時間超の割増賃金率引き上げに伴う月額変更は必要ない?
人事労務関係の実務において、よくご相談を頂く内容をQ&A形式でご紹介をしています。
Question
相談内容
- 2023年4月から、中小企業についても「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率」が25%から「50%」に引き上げられました。これに伴い、社会保険料の月額変更の対象となりますか?
Answer
回答
- 月額変更の対象となり得ます。
- 日本年金機構の『標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集』に基づき、今回の法改正による割増賃金率の引き上げについても月額変更(随時改定)の対象になると考えられています。
残業代は非固定的賃金だから、今回の法改正のケースも「月額変更は必要ない」という考えをする方も多いけど、それは間違い!
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月額変更とは
そもそも、社会保険料は、報酬額を都道府県ごとの等級表に当てはめて算出します。通常、年に1回「定時決定(算定)」手続きにより決定され、来年の定時決定が行われるまでの1年間、その等級の社会保険料が適用されることになります。
しかし、1年間の途中で大幅に報酬が上がったり下がったりする場合には、実態に即した社会保険料に変更する必要性が出てきます。1年間の途中で、随時、社会保険料の改定を行う手続きを「随時改定(月額変更)」といいます。
以下のいずれの要件も満たすことで、月額変更の対象となります。
① 昇給又は降給により固定的賃金の変動があった
② 変動月(起算月)から3か月間に支給された報酬の平均月額に該当する標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
③ 上記②の3か月間のいずれの月も支払基礎日数が17日以上ある
実務では、月額変更(随時改定)のことを「月変(げっぺん)」という言い方をするよ!
割増率の変更に伴う月額変更
(抜粋)
(問2)
超過勤務手当の支給単価(支給割合)が変更された場合は、随時改定の対象となるか。
(答)
超過勤務手当については、個々人や月々の稼働状況によって時間数が不確定であるため、単に時間の増減があった場合は随時改定の対象とはならないが、支給単価(支給割合)が変更となった場合は随時改定の対象となる。
上記の通り、日本年金機構より公表されている「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」によると、超過勤務手当(時間外労働に対する割増賃金)の支給単価(支給割合)が変更された場合も月額変更の対象となり得ることとされています。
また、2023年4月より中小企業についても、労働基準法の改正により、月60時間超の時間外労働の割増賃金率が25%から「50%」に引き上げられました。法改正により支給率が(強制的に)変更されたという背景はありますが、今回のケースもこの事例に当てはめて考えることとされています。
月額変更の起算月
(抜粋)
(問7ー2)
非固定的賃金が新設された月に、非固定的賃金が支払われる条件が達成されなかったために初回の支払が0円となったが、次月以降は実際に支払いが生じたような場合、起算月の取扱いはどのようになるか。
(答)
新たに非固定的賃金の新設がなされたことによる賃金体系の変更を随時改定の契機とする際は、その非固定的賃金の支払の有無に係わらず、非固定的賃金が新設された月を起算月とし、以後の継続した3か月間のいずれかの月において、当該非固定的賃金の支給実績が生じていれば、随時改定対象となる。
なお、非固定的賃金の新設以後の継続した3か月間に受けた報酬のいずれにも当該非固定的賃金の支給実績が生じていなければ、報酬の変動要因としてみなすことができないため、随時改定の対象とはならない。また、その場合には当該非固定的賃金の支給実績が生じた月を起算月とすることにもならない。
上記の通り、月60時間超の割増賃金率が適用された残業代の支払いの有無に関わらず、法改正による割増賃金率50%が適用された残業代の支給開始月が起算月となります。
月額変更の対象となり得る賃金変動月(起算月)のことを、月変フラグが立つという言い方をするよ!
つまり、2023年4月分の賃金を当月4月に支給する会社であれば、4月が起算月となり(月変フラグが立ち)、7月月変予定ということになります。
一方、4月分の賃金を翌月5月に支給する会社であれば、5月が起算月となり、8月月変予定ということになります。
なお、上記事例の通り、今回の法改正が「非固定的賃金の新設」に該当すると考えると、月60時間超の割増賃金率50%が適用された残業代が、法改正適用後3か月間のいずれかの月に、実際に支給されて初めて月額変更の対象になり得ることになります。
当月4月支給の会社であれば、4月、5月、6月のいずれかの月に60時間超の時間外労働をしていないと、月額変更の対象にはなりません。その後、仮に7月や8月に60時間超の時間外労働がやっと発生して、法改正後の割増賃金率が適用されたとしても、新たに月変フラグが立つことにはなりません。
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引用元:資格の大原HP
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