労務相談Q&A

【令和5年9月】心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正

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moyap

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人事労務関係の実務において、よくご相談を頂く内容をQ&A形式でご紹介をしています。

Question

相談内容

  • 「心理的負荷による精神障害の認定基準」とはどういうものですか?
  • 今回の改正により、パワハラの労災認定がされやすくなるって本当ですか?

Answer

回答

  • 心理的負荷による精神障害の認定基準は、一定の精神障害が労災として認定されるか否かの基準を示したものです。通達「業務による心理的負荷評価表(別表1)」に具体的事例が例示されており、心理的負荷を「強」「中」「弱」の3段階評価で行います。主に「強」と評価されるものについて、労災認定を行うというイメージです。
  • 改正により、パワハラ6類型が具体的事例に列挙されることとなりましたが、これにより「労災認定がされやすくなる」ことはないと考えられます。ただし、明示されたことにより「基準が明確に分かりやすくなった」ので、労災請求件数の増加とそれに伴う認定件数の増加は予想されます。
ちょこシャロくん
ちょこシャロくん

この記事では、改正内容だけじゃなく、そもそも認定基準って何?という説明もしていくよ!

「心理的負荷評価表」は以下「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の別表1(14〜17ページ)をご参照ください。

詳細のご案内

改正内容

社会情勢の変化やハラスメントに対する労働者の意識の変化により、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等の各種ハラスメントに関する相談件数・労災請求件数が増加してきています。

新型コロナウイルス感染症の流行も相まって、うつ病等のメンタルヘルス疾患を持つ労働者が増加してきていると考えられています。

厚生労働省では、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、2023年9月1日付で厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知しました。

改正の概要

① 業務による心理的負荷評価表の見直し

② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し

③ 医学意見の収集方法を効率化

それぞれの具体的な改正内容は、以下の通りです。

① 業務による心理的負荷評価表の見直し
  • 具体的出来事として、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆる「カスタマーハラスメント」)を追加。
  • 具体的出来事として、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加。
  • 心理的負荷の強度が、「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)。

※カスタマーハラスメント及びパワーハラスメント6類型については後述します。

② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
  • 悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める。
③ 医学意見の収集方法を効率化
  • 専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更。

精神障害の労災認定基準

そもそも、「心理的負荷による精神障害の認定基準」とはどういうものなのでしょうか。

精神障害が労災(業務上の疾病)として認定されるためには、以下全ての要件を満たす必要がございます。

精神障害の労災認定基準
  • 対象疾病を発病していること。
  • 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  • 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

「対象疾病の発病前おおむね6か月」については、

「発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とする」とされています。

つまり、いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前から開始され継続しているのであれば、6か月間に限らず開始時からのすべての行為が評価対象となるということです。

「業務による強い心理的負荷」については、

この記事冒頭のpdfデータ「業務による心理的負荷評価表」(※「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の14〜17ページ参照)による「強・中・弱」の3段階評価のうち、「強」と評価されるものを指します。

※詳しくは後述します。

「業務以外の心理的負荷及び個体側要因」については、

この記事冒頭のpdfデータ「業務以外の心理的負荷評価表」(※「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の18ページ参照)による「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」の3段階評価により、それらの内容等を詳細に調査の上、それ(業務以外の心理的負荷)が発病の原因であると判断することの「医学的な妥当性を慎重に検討」して要件を満たすか判断します。

心理的負荷の評価

前述した通り、「業務による強い心理的負荷」については、業務による心理的負荷評価表による「強・中・弱」の3段階評価のうち、「強」と評価されるものを指します。

具体的には、以下のようなものがあります。

心理的負荷「強」とされるもの(一部抜粋)

業務による心理的負荷評価表において、「強」とされるものを以下抜粋して紹介します。

  • 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)
  • 発病前の連続した2か月間に、1か月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
  • 発病前の連続した3か月間に、1か月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
  • 仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し、1か月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、その後の業務に多大な労力を費やした(仕事内容・仕事量の大幅な変化)
  • 長時間(おおむね2か月以上)の入院を要する、又は労災の障害年金に該当する若しくは原職への復帰が出来なくなる後遺障害を残すような業務上の病気やケガをした
  • 他人に負わせたケガの程度は重度ではないが、事後対応に多大な労力を費やした(減給・降格等の重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した)
  • 会社の経営に影響するなど重大な仕事上のミス(倒産を招きかねないミス、大幅な業績悪化に繋がるミス、会社の信用を著しく傷つけるミス等)をし、事後対応にも当たった
  • 顧客や取引先からの重大なクレームを受け、その解消のために他部門や別の取引先と困難な調整に当たった
  • 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
  • 同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた
  • セクシュアルハラスメントを継続して受けた
  • 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求められた

ちなみにカスタマーハラスメントとは?

カスタマーハラスメントとは、「顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為」を指します。

特にお客様と接する機会の多い企業においては、カスタマーハラスメントに対する相談体制の整備や迅速な対応、カスタマーハラスメントが発生しにくい環境づくりが求められます。

以下、厚生労働省のホームページより『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』をダウンロードすることができます。

パワーハラスメントの6類型についておさらい!

職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型としては、以下の6つの類型があります。

パワハラ6類型
  • 身体的な攻撃…蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ
  • 精神的な攻撃…脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ
  • 人間関係からの切り離し…隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラ
  • 過大な要求…業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ
  • 過少な要求…業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、または仕事を与えないパワハラ
  • 個の侵害…個人情報の暴露や執拗な監視等、私的なことに過度に立ち入るパワハラ
ちょこシャロくん
ちょこシャロくん

これらは「限定列挙」ではなく、あくまでも「例示列挙」となります。その他の事由についても上記類型に照らしてパワーハラスメントとして判断される可能性がございます。

パワーハラスメントに該当するか微妙なものも含め、広く相談対応を行う等の対応が望ましいでしょう。

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社会保険労務士(有資格者)
『ちょこっと社労士ブログ』運営者の「ちょこシャロくん」です!
自身の社労士合格経験(不合格経験も…)や労務相談実務について、皆様に情報発信をしていきたいと思います!
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